こんにちは。
こめまるです。
今の時代、定年後は、悠々自適に過ごす人というのは、非常に珍しいと思います。
重松清の小説「定年ゴジラ」は、そういう意味では、おとぎ話のようなお話です。
当時は、定年退職者の悲哀を描いたと言われていましたが、現代になれば、定年と同時に年金も受け取れて、何していいかわからないと悩みのことは、むしろ羨ましいと思う人も多いのではないでしょうか?
「定年ゴジラ」が出版されたのが、1998年3月。
今から20年前のことです。
この20年間に定年退職者を取り巻く状況は大きく変わりました。
今日は「定年ゴジラ」を題材にいろいろ考えたいと思います。
定年ゴジラが生まれた時代
重松氏は、1963年生まれで僕より6つ年下。
自分の父親を観ていたり、当時仕事場にしていた団地周辺で見かける定年退職者と思われる年配の方々を観て、アイデアが生まれて書いた小説だということです。
1998年は今から20年前で、この年は、企業に対して60歳未満の定年制が禁止され施行された最初の年です。
決まったのが1994年ですからこの頃にはほぼ全ての企業で定年は60歳になっていたと思われます。
実際僕が勤めていた会社は、入社した1982年の入社要項には、定年は55歳と明記してありました。
さて、僕が「定年ゴジラ」を読んだのが自分が定年になってからでこの2年以内のことですが、まず感じたのは、遠い昔の話という感じで、現代の感覚との差に驚きました。
定年ゴジラが生まれた時代は、既に平成になって10年目。
当時定年を迎えた世代は、昭和13年以前に生まれた方々。
僕の父親が昭和8年ですから、当時65歳。
つまり定年後働かなくても年金がしっかり受け取られた時代です。
しかもこの当時60歳で定年を迎えると同時に年金が受給できたのです。
昭和16年4月1日以前に生まれた方々は、年金の受給は60歳からでした。
それをやることがないなどとぜいたく言ってんじゃないよ!と現代の人、またはこれから定年を迎えようという50歳前の人たちは思うわけです。
だから僕は、定年ゴジラの登場人物たちやその舞台設定は、現代ではおとぎ話の世界だと思うのです。
定年ゴジラはいつからおとぎ話になったか
ここで定年ゴジラで描かれた時代がいつからおとぎ話の時代になったかみてみます。
まず、定年ゴジラのあらすじを以下に引用します。
中間管理職で定年退職したばかりの山崎さんは、 新宿から電車で1時間半という距離にあるニュータウン『くぬぎ台』に住んでいる。 このニュータウン、映画館はもとよりパチンコ店、喫茶店、居酒屋…といった娯楽のかけらもない。 始発をめざして家を出て終電で帰宅するようなサラリーマン時代には、それほど気にもとめなかった。 しかし定年を迎えてから、何もすることがない日々に何と退屈なところだろうと思ってしまう。 時間つぶしに町内のウォ―キングを始めた山崎さんは、 元敏腕広告営業マンで世話好きな町内会長・古葉さんや、 サラリーマン時代は単身赴任ばかりしていて、今はデパートの物産展巡りが趣味という野村さん、 電鉄会社でこの『くぬぎ台』の宅地造成開発担当者だった藤田さんらの定年散歩仲間が出来、 彼らとの交流を通して定年後の新たな一歩を踏み出すことになった。 彼らと交流することで”自分の居場所”が次第に見えてきた。 必死に働き追い求めた幸せとはなんだったのか? ホロリと可笑しい、オジサンたちの自分探しが始まる。 文学座HPより
演劇や映画のテーマになると思います。映画「夕日の三丁目」的なむかしは良かったという邂逅的な話です。
しかし、現代、そしてこれから60歳どころか70歳、いや場合によっては75歳まで働かなければいけない人たちは、この「定年ゴジラ」の時代を知ってどう感じるのでしょうか?
むかしは良かったね、羨ましいよ、それに比べ俺たちはまだまだ働かなきゃいけないよと思うのか、こんな世の中にした政治が悪いと思うのか。
僕は両方で、こんな世の中にした責任追求は非常に大事だと思うのです。こんな状況になっても政治は関係ないよと背を向けて投票に行かない、または惰性で自民党に投票するというのは、考え直した方が良いと思います。
さて、この一番おとぎ話の時代を享受できたのが、実は定年ゴジラの主人公たちなのです。60歳未満の定年を認めないと決まったのが1994年。施行が98年。
そして年金が60歳からもらえたのが、1941年4月1日以前に生まれの人たちまでです。
つまり定年ゴジラが出版された1998年3月にはほぼ定年が60歳になっていて、以後僅か3年間だけですが、定年と同時に公的年金が満額受給出来るという時代だったのです。
まさに定年ゴジラの登場人物たちは、そんな僅かな期間ですが、恵まれた状況を享受できた人たちなのです。
だからゆっくり過去を振り返り、懐かしんだり、寂しがったり出来たのです。
最後に
重松清著「定年ゴジラ」は楽しく読みました。当時は定年退職者の悲哀を描いた小説という捉え方をされていましたが、今はおとぎ話として羨ましい時代のお話として捉えることができます。
つまり高度成長期を支えてきた男たちが、バブル経済崩壊後に定年を迎えて、住んでいたニュータウンも老朽化し住人も高齢化し、それを自分たちと重ね合わせて感慨にふけるという演劇や映画のテーマにはうってつけのネタです。
でも時は過ぎ、現代は過去を振り返ることすら許されない時代になりました。
ただ、過去は過去。好むと好まざるにおいて、前を向くしかない現代もいつかおとぎ話になる時代が来るかもしれません。
コメント